経営の知恵

子牛86万円時代、いくらで売れば採算が合うのか|肥育の損益分岐点を電卓で叩く


子牛86万円時代、いくらで売れば採算が合うのか|肥育の損益分岐点を電卓で叩く
📑 目次

※本記事はプロモーションを含みます。

「セリに行っても買えない。80万円台で手が止まる」 「この値段で買った牛、2年後にいくらで売れば合うんだ」

2026年の家畜市場で、いちばん多く聞こえてくるのがこの二つだと思う。

数字を先に置く。佐賀県中央家畜市場(JAさが畜産センター・多久市)の子牛平均価格は、2026年3月に86万7,135円(税込・雌去勢合計)となり、過去最高を記録した。底だった2024年9月の46万1,597円から、18か月で87.9%高である。

私は飼料と畜産資材の代理店営業を13年やり、営業車で牛舎の前に立ってきた。だから断言できる。この局面で本当に効くのは、相場の予想ではない。「自分の牛は、いくらで売れば赤字にならないのか」という一本の線を、自分の数字で持っているかどうかだ。

本記事は、その線を引くための電卓記事である。すべて2026年8月5日時点で確認した公表データにもとづく。

牛飼い君
子牛が高いのは、繁殖農家にとっては良いことなんじゃないの?
牛飼い君
さんぼう君
さんぼう君
売る側にはね。でも同じ牛を買う肥育農家にとっては、そのまま原価になるんだ。しかも子牛だけが上がって、出口の枝肉が追いついていない。ここが今回いちばん大事なところだよ。

先に結論。2026年8月時点で押さえるべき4点

① 素牛89万円なら、必要な売上は150万〜160万円台。公表データから逆算すると、枝肉500kgで3,000〜3,100円/kgが損益分岐の目安になる(計算過程は本文)。

② ところが東京市場の和牛去勢A5は2,625円/kg。2026年6月速報値・税込。最上級のA5ですら、必要単価に届いていない。これが「子牛の独り高」の正体だ。

③ 「繁殖農家が2割減った」=「母牛が2割減った」ではない。佐賀では戸数が17.7%減る一方、繁殖牛頭数は0.7%減にとどまる。減ったのは戸数で、頭数は集約されている。

④ ただし全国の母牛は令和5年をピークに減り始めた。子取り用めす牛は64万5,190頭→61万1,510頭。今の高値は「安すぎた時期のツケ」が遅れて出てきたものと読める。

この記事で分かること

  • 2026年8月時点の子牛相場——佐賀と全国の実数値と、その読み方
  • 素牛89万円で買った牛の損益分岐点を、公表データから電卓で叩く手順
  • 枝肉重量別・単価別の損益分岐早見表と、逆に「いくらまでなら買えるか」の上限
  • なぜ子牛だけが上がり、枝肉が追いついていないのか
  • 牛マルキン(肉用牛肥育経営安定交付金)はどこまで受け止めてくれるのか
  • 「繁殖農家2割減」の統計を、どう読み違えないか——戸数と頭数の分離
  • 繁殖側がなぜ辞めたのか——生産費85万円・売値50万円台だった時期の話

まず、相場の事実関係を並べる(2026年8月時点)

感情論の前に数字を置く。

佐賀県中央家畜市場の推移

JAさが畜産センターが公表しているセリ成績表(税込)から、年度合計と直近の数字を拾う。

項目数値
令和2年度のセリ頭数6,630頭
令和7年度のセリ頭数5,498頭(5年で17.1%減)
底値(2024年9月・合計平均)461,597円
過去最高(2026年3月・合計平均)867,135円
底からの上昇率+87.9%(18か月)

令和6年度(2024年4月〜2025年3月)の加重平均を計算すると53万7,825円、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)は69万9,300円となる(同表から筆者算出)。1年で16万円強、率にして約30%の上昇である。

全国の黒毛和種はどうか

農畜産業振興機構(ALIC)の肉用子牛取引情報(黒毛和種・全市場)を見る。

全国平均価格取引頭数集計市場数
2025年7月646,597円32,939頭71市場
2025年12月772,563円28,501頭66市場
2026年3月842,052円28,383頭69市場
2026年4月860,899円(直近ピーク)27,153頭65市場
2026年7月839,179円24,944頭63市場

2025年7月から2026年7月で、全国平均は29.8%高。佐賀の単一市場だけの話ではない。

そして佐賀の直近を同じALICデータで見ると、2026年7月は449頭・856,251円。前年同月は510頭・616,779円だったので、頭数は61頭減り、価格は23万9,472円(38.8%)上がった。サガテレビが2026年8月4日に報じた「去年の同じ月より60頭ほど減った」という現場の体感と、数字がぴたりと重なる。

牛飼い君
表の右端にある「集計市場数」って、何のために載せてるの?
牛飼い君
さんぼう君
さんぼう君
ここ、いちばん大事な落とし穴なんだ。71市場と63市場を並べて「頭数が8,000頭減った」と言ったら、それは嘘になる。開催のない月がある市場も混ざるからね。後の章でちゃんと書くよ。

本題——素牛89万円の牛は、いくらで売れば合うのか

ここからが本記事の主砲である。

手順は3つだけ

損益分岐点の出し方はシンプルだ。

  1. 素牛費(もと畜費)を置く
  2. 素牛費以外にかかる費用を置く
  3. 両者を足して、枝肉重量で割る

これで「必要な枝肉単価」が出る。あとは今の相場と比べるだけだ。

①素牛費を置く

ALICの全国平均(黒毛和種・去勢)で、2026年3月は894,029円。約89万4千円である。この記事ではこれを素牛費として使う。

②素牛費以外の費用を置く

ここは根拠を二つ用意した。ひとつの数字を信じ込むより、二つの独立した推計を突き合わせるほうが、経営判断の材料としては強いからだ。

根拠A:牛マルキンの算定値。日本農業新聞の連載「原田英男の和牛を語ろう」(2026年4月30日・元農水省畜産部長)では、素牛価格以外の生産費として62万3,000円(2026年2月のマルキン算定値)が示されている。

根拠B:農水省の生産費統計から引き算する。令和6年畜産物生産費統計(令和7年12月19日公表)によれば、去勢若齢肥育牛1頭当たりの全算入生産費は137万5,264円、うちもと畜費が71万3,400円。差し引くと66万1,864円が「素牛以外の費用」になる。

62.3万円と66.2万円。4万円しか違わない。算出方法がまったく違う二つの数字がこれだけ近いなら、この水準は信頼していい。

③足して、枝肉重量で割る

素牛以外の費用必要売上(素牛894,029円と合算)
62万3,000円(マルキン算定値)1,517,029円
66万1,864円(令和6年生産費ベース)1,555,893円

つまりおおむね152万〜156万円。日本農業新聞の同記事は「2026年3月に導入した子牛は162万円(枝肉重量500kgの場合3,200円/kg)で販売しなければ赤字」と結論づけており、こちらの試算とも桁と方向が一致する。

さらに現場の声も重ねておく。サガテレビの取材(2026年8月4日)で、唐津市の肥育農家・宮崎陽輔さんは「一頭の経費って元牛代+70万はかかります、もう150万が(赤字の)ライン」と語っている。89万+70万=159万円。統計から出した数字と、牛舎で暮らす人の肌感覚が、ほぼ同じところに着地している。

損益分岐早見表——枝肉重量別の必要単価

素牛894,029円+素牛以外66万1,864円=155万5,893円を、枝肉重量で割る。

枝肉重量必要な枝肉単価(円/kg)
450kg3,458円
480kg3,241円
500kg3,112円
520kg2,992円
550kg2,829円

素牛以外を62万3,000円で置いた場合は、500kgで3,034円/kg、550kgで2,758円/kgとなる。おおむね3,000〜3,100円/kg前後が分岐点と見ておけば、大きく外さない。

では、いまの枝肉相場はどうか

JA全農ミートフーズが公表している東京市場の枝肉卸売価格(税込)を置く。

区分2026年5月実績2026年6月速報値
和牛去勢 A-52,700円/kg(前年比108.6%)2,625円/kg(同108.9%)
和牛去勢 A-42,535円/kg(同111.9%)2,434円/kg(同115.8%)

前年比では1割前後上がっている。だが、必要な3,000〜3,100円/kgには届いていない。500kgで計算すれば、A5で131万2,500円、A4で121万7,000円。必要売上との差は24万〜34万円になる。

しかもこれは全頭がA5で出る前提の計算だ。実際にはA4以下も混ざる。念のため書いておくが、消費税の扱い(税込・税抜)は統計によって異なるため、数万円単位の誤差は残る。この表の目的は、円単位の正解を出すことではなく、「桁と方向」をつかむことにある。

逆算——いまの相場なら、いくらまで買えるのか

セリ場で本当に必要なのは、この逆算のほうだ。素牛以外の費用を66万1,864円で固定し、「この枝肉単価で売れるなら、素牛はいくらまでなら合うか」を出す。

枝肉単価 × 重量売上合う素牛価格の上限
2,625円 × 500kg1,312,500円650,636円
2,625円 × 550kg1,443,750円781,886円
2,800円 × 550kg1,540,000円878,136円
3,000円 × 550kg1,650,000円988,136円

いまのA5相場(2,625円/kg)で計算すると、合う素牛価格は65万〜78万円。実際の全国平均は89万円である。

差の11万〜24万円は、「2年後に相場が上がっている」という賭けの部分だ。賭けが悪いとは言わない。ただ、賭けている自覚があるかどうかで、次の一手はまるで変わる。セリ場で手が止まる感覚は、経営者として正しい反応だと私は思う。

牛マルキンは、どこまで受け止めるのか

セーフティネットの話を飛ばすと、この記事は片手落ちになる。

肉用牛肥育経営安定交付金(牛マルキン)は、畜産経営の安定に関する法律にもとづく制度で、肥育牛1頭当たりの標準的販売価格が標準的生産費を下回った場合に、その差額の9割を交付する。ただし交付金のうち4分の1は生産者自身の積立金から支出される。標準的販売価格は全国10ブロック、標準的生産費は都道府県ごとに算出される。

押さえておくべき点は二つ。

ひとつ、9割であって10割ではない。そのうえ4分の1は自分が積んだ金だ。実質的に外から入ってくるのは差額の一部にすぎない。

ふたつ、いま発動していないことがある。前掲の日本農業新聞の記事では「2026年2月のマルキンは発動されていない」とされている。理由は制度の設計にある。マルキンが見るのは22か月前の子牛価格を織り込んだ標準的生産費であり、2026年2月時点の算定に使われるのは62万円程度の子牛価格だった。いま89万円で買っている牛のきつさは、制度の数字にはまだ反映されていないということだ。

制度は必ずタイムラグを持つ。だからこそ、自分の分岐点は自分で持っておく必要がある。

なぜ子牛だけが上がるのか——「独り高」の構造

需要が強くて牛肉が売れているから子牛が上がっている、という単純な話ではない。

前掲の日本農業新聞の記事は「枝肉相場が好調と言われながらも和牛の実需は弱く、和牛の主戦場である外食産業も厳しい状況が続く」状況下での「子牛価格の『独り高』」と表現している。

JA全農ミートフーズの2026年6月の情勢分析も「GW明け以降の消費低迷は6月も継続」「物価高騰の影響もあり牛肉需要の停滞感は強まっている」としつつ、「出荷頭数の減少から各畜種・等級ともに前年を上回った」と書いている。つまりいまの枝肉高は、需要が伸びたからではなく、出てくる牛が減ったからという色が濃い。

出口が「品薄で少し上がっている」程度なのに、入口の素牛だけが3割上がる。この非対称が、肥育農家の手取りを削っている。枝肉相場そのものの読み方は枝肉相場の読み方にまとめてあるので、あわせて読んでほしい。

【統計の読み方】繁殖農家は2割減った。だが母牛は減っていない

ここからが、本記事のもう一つの柱である。

「繁殖農家が5年で2割減った」という報道は正しい。だが、そこから「母牛も2割減った」と読むのは誤りだ。佐賀県畜産課の資料(令和8年1月)で確かめる。

項目令和2年令和7年増減
繁殖牛飼養戸数440戸362戸-17.7%
繁殖牛飼養頭数9,710頭9,640頭-0.7%
1戸当たり頭数22.1頭26.6頭+20.4%

戸数は17.7%減ったのに、母牛は0.7%しか減っていない。辞めた農家の牛が、残った農家に引き取られて集約された結果だ。1戸当たりは22.1頭から26.6頭へ、2割増えている。

つまり佐賀に関して言えば、「頭数が足りない」ことより先に「セリ場に出てくる頭数が減った」ことが起きている。全国の状況とあわせて読む必要がある。

佐賀の構造——素牛の7割超は県外から来る

もうひとつ、佐賀特有の事情がある。同資料によれば、肥育素牛の県内自給率は27.1%(令和6年度・肉専用種)。つまり県内で肥育される佐賀牛の素牛の7割超は、県外から調達している

サガテレビの取材でも、宮崎さんは「おとといまで奄美の方に行ってました」「どこでもちょっと頭数が減ってますね」と語っている。県内の市場が薄くなれば、そのまま全国の市場へ買い出しに行くことになる。佐賀の子牛不足は、佐賀だけで完結する問題ではない

全国では、いつから減り始めたのか

ここを間違えている記事が多い。全国の子牛は、ずっと減り続けてきたわけではない

佐賀県資料に載っている全国値を見ると、肉用子牛出荷頭数は令和元年の312,198頭から令和6年の363,243頭へ、5年で16.4%増えている(ALIC「肉用子牛取引状況表」年度計)。減少に転じたのは、ごく最近のことだ。

母牛のほうも同じ形をしている。全国肉用牛振興基金協会の統計で、肉用種の子取り用めす牛飼養頭数を追う。

全国の子取り用めす牛
令和2年622,010頭
令和5年645,190頭(ピーク)
令和6年640,310頭
令和7年611,510頭

令和5年がピークで、そこから2年で33,680頭(5.2%)減った。しかも減り幅は令和6年→令和7年に集中している。

さらに新しい数字もある。2026年7月31日公表の畜産統計(令和8年2月1日現在)では、肉用牛の飼養戸数31,800戸(前年比6.5%減)、飼養頭数247万3,000頭(同4.7%減)。1戸当たりは77.8頭(同2.0%増)。戸数が減り、頭数も減り、しかし1戸当たりは増える——集約が進みながら全体が縮む、という形がはっきり出ている。

統計の罠——「頭数が減った」を軽々に言わない

最後に、この分野でいちばんやりがちな誤りを書いておく。

先ほどの全国の表をもう一度見てほしい。集計市場数が71市場から63市場まで動いている。ALICの子牛取引情報は、その月に開催された市場を集計しているため、開催がなかった市場は分母から落ちる

ここで「2025年7月32,939頭→2026年7月24,944頭だから8,000頭減った」と書けば、市場数の変動をそのまま頭数減として発表してしまうことになる。実際に減ってはいるだろうが、その幅をこの引き算で語ってはいけない。

頭数の増減を語るときは、同じ市場・同じ期間で比べる。本記事が佐賀の年度合計(6,630頭→5,498頭)や、佐賀単市場の前年同月比(510頭→449頭)という比べ方をしているのは、そのためだ。数字を扱う仕事をしてきた者として、ここだけは譲れない。

繁殖側の話——なぜ、あれだけの人が辞めたのか

肥育の分岐点を叩いたので、入口側の採算にも触れておく。いまの高値は、繁殖農家が儲かりすぎた結果ではない。むしろ逆だ。

農水省の生産費統計では、令和6年の子牛1頭当たり全算入生産費は85万2,345円(前年比1.4%減)。令和5年は86万4,024円だった。統計上、子牛1頭を育てるのに85万円前後かかっているという数字である。

一方、その令和6年度に佐賀の市場で子牛が実際にいくらで売れていたか。先ほど計算した加重平均は53万7,825円。2024年9月には46万1,597円まで落ちている。

85万円かけて育てたものが、50万円前後でしか売れない。この状態が1年以上続いた。

収益性の統計でも同じことが確認できる。繁殖雌牛1頭当たりの所得は、平成30年度の336,995円から、令和5年には全国で△24,810円、九州では△34,406円と赤字に転落している(農水省・畜産物生産費統計 子牛生産費)。

これが、5年で戸数が2割減った局面の中身だ。前掲のサガテレビの取材でも、宮崎さんはこう言っている。「生産農家の方が(採算が)合わなくって辞めちゃって、頭数減ってっていうので今なんで、安く買いすぎてもダメだって分かっているんですよ」

なお国は下支えとして肉用子牛生産者補給金制度を持っており、2025年12月22日に決定された令和8年度の保証基準価格は黒毛和種で60万円/頭(前年度比+2万6,000円)。これは「これ以下では経営が持たない」と国が置いている線でもある。令和6年度の佐賀の加重平均53万円台は、その線を下回っていたことになる。

繁殖経営の実感については繁殖農家はきつい?6つの理由、原価の中身は子牛の生産原価は本当に83万円かに詳しく書いた。

現場を回っていて思うこと

飼料の代理店営業をしていた頃、庭先でよく聞かれた。「今年の相場、どう思う?」。

正直に言えば、相場は誰にも読めない。読めないから、私は別のことを聞き返すようにしていた。「うちの牛、1頭あたりいくらかかってるか、出せますか」と。

そこで即答できる農家は、驚くほど少なかった。決算書はある。通帳もある。だが「1頭あたり」に落とした数字を持っている人は限られていた。そして持っている人ほど、相場に振り回されずに買い方を決めていた。

もうひとつ、現場を見ていて感じたことがある。血統には熱心なのに、コストには無頓着という組み合わせが、けっこうな割合であった。血統を読むのは楽しい。カタログを眺め、種雄牛を語る時間には夢がある。一方、飼料の給与設計を1円単位で詰める作業には夢がない。だが手残りを決めているのは、たいてい後者のほうだ。

金をかけるべきところと、かけなくていいところの見極め。それは血統書の中ではなく、自分の帳簿の中にある。この話は血統信仰と繁殖経営にまとめてある。

いま打てる手——判断材料として

相場の先行きは断定しない。「今が買い時だ」「繁殖はやめたほうがいい」と書くつもりもない。私にはそれを言う資格がないし、あなたの経営条件は私の知らない条件で動いている。

そのうえで、材料として置けるものを並べる。

1. 「素牛以外の費用」を自分の数字で出す。この記事で使った62万〜66万円は全国平均だ。自分の牛舎の数字はそこから上にも下にもぶれる。1頭あたりで出せれば、セリ場で叩ける電卓が手元に来る。

2. 導入前に「出口の枝肉単価」を決めて、買値の上限を持つ。前掲の逆算表がそのまま使える。「2,800円/kg・550kgで出す」と決めれば、上限は87万円台。決めた上限を超えたら手を下ろす。決めていないと、場の空気で上限が動く

3. マルキンと補給金の加入状況を確認する。制度は発動にラグがある。あるのとないのとでは、ラグを越えられるかどうかが変わる。

4. 頭数を触る前に、固定費を触る。規模の判断はいちばん重く、いちばん後戻りしにくい。その前に見直せるものは残っていることが多い。飼料の設計、資材の調達先、そして使っていない機械だ。

使っていない機械は、毎年静かに目減りする

規模を見直す局面で必ず出てくるのが、納屋に眠っている農機である。親の代のトラクター、作業をやめた品目の機械、離農した親戚から預かったまま何年も経ったもの。

置いていても税や保険は出ていくのに、査定額のほうは毎年落ちていく。判断を先延ばしにする分だけ、静かに損が積み上がる構造になっている。

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よくある質問

Q. 子牛86万円というのは、全国の話ですか。 A. 86万7,135円は佐賀県中央家畜市場の2026年3月の平均(税込・雌去勢合計)です。全国の黒毛和種平均は同月84万2,052円、直近ピークは2026年4月の86万899円でした(ALIC)。水準としてはほぼ同じ動きをしています。

Q. 損益分岐点は、結局いくらですか。 A. 素牛を89万4,029円(2026年3月の全国去勢平均)とした場合、必要売上はおおむね152万〜156万円。枝肉500kgなら3,000〜3,100円/kg前後が目安です。ただし素牛以外の費用は経営ごとに幅があるため、必ず自分の数字で置き直してください。

Q. いまの枝肉相場なら、素牛はいくらまで買えますか。 A. 東京市場の和牛去勢A5(2026年6月速報値・2,625円/kg・税込)で計算すると、枝肉500kgで約65万円、550kgで約78万円が上限になります。実際の相場との差は「2年後の相場上昇に賭けている部分」と考えるのが安全です。

Q. マルキンがあるから大丈夫では。 A. 補塡は差額の9割で、うち4分の1は生産者の積立金から出ます。また算定は22か月前の子牛価格を含む標準的生産費にもとづくため、今の高値の影響が反映されるまで時間差があります。2026年2月時点では発動していません。

Q. 繁殖農家が2割減ったなら、母牛も2割減ったのでは。 A. 違います。佐賀では戸数が17.7%減る一方、繁殖牛頭数は0.7%減にとどまり、1戸当たりは22.1頭から26.6頭へ増えました。辞めた農家の牛が残った農家に集約されています。ただし全国の子取り用めす牛は令和5年をピークに2年で5.2%減っており、こちらは実数の減少です。

Q. 全国の子牛は、ずっと減り続けてきたのですか。 A. いいえ。肉用子牛の出荷頭数は令和元年の312,198頭から令和6年の363,243頭へ、5年で16.4%増えていました。減少に転じたのはごく最近です。「長年の減少がついに限界に達した」という説明は、少なくとも出荷頭数のデータとは合いません。

Q. この記事の数字は、いつ時点のものですか。 A. すべて2026年8月5日時点で確認した公表データです。相場は毎月動くので、実際の判断は最新の市場速報とご自身の経営数値で行ってください。

まとめ

  • 佐賀の子牛平均価格は2026年3月に86万7,135円と過去最高。底の2024年9月から87.9%高
  • 全国黒毛和種も1年で29.8%高。2026年4月の86万899円がピーク
  • 素牛89万円なら必要売上は152万〜156万円、枝肉500kgで3,000〜3,100円/kgが分岐点
  • 対して東京市場の和牛去勢A5は2,625円/kg(2026年6月速報・税込)。最上級でも届いていない
  • 逆算すると、いまのA5相場で合う素牛価格は65万〜78万円。差は相場上昇への賭けになる
  • マルキンは差額の9割・うち4分の1は自己積立。算定にはラグがあり、2026年2月は発動していない
  • 佐賀の繁殖は戸数-17.7%・頭数-0.7%。減ったのは戸数で、母牛は集約されている
  • ただし全国の子取り用めす牛は令和5年をピークに2年で5.2%減。全国の減少は最近始まった
  • ALIC速報は集計市場数が変動する。頭数の前年比を単純に引き算してはいけない
  • 繁殖側は生産費85万円・売値50万円台の時期が続き、令和5年には所得が赤字に転落していた

いま起きていることを一行にすれば、「安すぎた時期のツケが、時間差で入口の価格に出てきた」ということだと思う。繁殖が減った理由も、肥育が苦しい理由も、根は同じところにある。

相場は読めない。だが、自分の分岐点は今日のうちに出せる。それを持って市場に立てば、手を下ろす判断も、あと一声かける判断も、自分の数字が決めてくれる。場の空気ではなく。

明日も牛舎の朝が来る。あなたの電卓が、いい線を引いてくれることを願っている。

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参考文献・出典

本記事の数値は以下の公表データにもとづく(すべて2026年8月5日確認)。相場は毎月変動するため、実際の経営判断は最新の市場速報とご自身の実績数値で行ってほしい。試算部分は本記事筆者による計算であり、特定の経営における採算を保証するものではない。

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この記事は、和牛農家の息子としての経験と、飼料営業として全国の現場で見聞きしたことに基づいています。 個別の経営判断は、必ず担当の税理士・士業・JA・農業委員会等にご相談ください。

この記事を書いた人

さんぼう君

和牛繁殖農家・野菜農家の息子。実家の「売り先が限られている/やり方次第でもっと稼げるはず」 という課題を追ううちに、畜産・農業経営の知識を深く積み上げてきました。 現場で学んだ「リアルな農業経営」を、業界外の人にもわかる言葉でお伝えしています。

→ さんぼう君について詳しく